新刊紹介

新刊紹介_20230725

 
新刊紹介

小川公代『世界文学をケアで読み解く』朝日新聞出版

概要

現代人が失いつつある〈ケアの倫理〉は、世界の文学に読みとれる。

『ケアの倫理とエンパワメント』で政治、社会、医療、介護の分野からも注目される英米文学者の〈ケアの倫理〉にかんする画期的な問いかけ。自立を迫る新自由主義的風潮のもと、ケア思想をたどり、韓国、欧米、日本などの文学作品とつなげて読み込む。

マン・ブッカー国際賞受賞作家の韓国のハン・ガンが描く『菜食主義者』、光州事件をあつかった『少年が来る』。

欲望や怒り、憎悪などの暴力に振り回されながらも、どのようにその世界から抜け出せるのか。

ブッカー賞受賞作家、カナダのアトウッドがSF的想像力で生み出した『侍女の物語』と『誓願』でのサバイバルとは?

このディストピア小説の舞台である「ギレアデ」共和国は不可視の世界で、キリスト教原理主義と家父長制が支配する。そして一人の女性の苦悩が女性たちの連帯(シスターフッド)と結ばれ、「他者」の言葉の力、生存する力がしめされる。差別により死にいたらしめられる者とその過酷さを知らぬ者、老いを経験する者と年若い者、病に臥す者と健康な体を持つ者、はたしてこのような差異を乗り越えて他者の傷つきや死を、私たちは凝視できるだろうか。

死者へのケアをテーマにした、トニ・モリソン『ビラヴド』、平野啓一郎『ある男』、石牟礼道子『苦海浄土』、ドリス・レッシング『よき隣人の日記』をもとに、他者への想像力を働かせることがどのようにケア実践につながるのかを考える。

冷たい墓碑や硬い土に埋葬されている死者。かつては生命力に満ちていた身体と内面世界が、作品のなかで豊かな言葉によって回復されている

目次
  • 今こそ〈ケアの倫理〉について考える――序論にかえて
  • 第一章 現代人が失いつつあるものとしての〈ケア〉
  • 第二章 弱者の視点から見る――暴力と共生の物語
  • 第三章 SF的想像力が生み出すサバイバルの物語
  • 第四章「有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)」に抗する文学を読む
  • 第五章 死者(ビラヴド)の魂に思いを馳せる――想像力のいつくしみ
  • 口をつぐむこと、弱くあることについて――あとがきにかえて

奥野克巳, 伊藤雄馬『人類学者と言語学者が森に入って考えたこと』教育評論社

概要

東南アジアの狩猟採集民(森の民)を研究している人類学者と言語学者。森の民とともに暮らして得た知見を語り尽くす。
性別役割分業や、「持たない」ことが基本原理であることなど、閉塞した日本社会を打破するヒントがここに。

目次
  • イントロダクション なぜ人類学者と言語学者は森に入るのか
  • プロローグ 森の民であり日本人でもある
  • 対談1 森の民に心奪われるということは何か
  • 【奥野克巳】他者のパースペクティヴから世界を見る
  • 対談2 狩猟採集民を知るープナンに出会う、ムラブリに出会う
  • 対談3 すり鉢状の世界を生きる私たちと、その外側
  • 【伊藤雄馬】ムラブリとして生きるということ
  • 対談4 have notの感性にふれる
  • エピローグ 現代人の中にうずく「狩猟採集民的な何か」

松林哲也『何が投票率を高めるのか』有斐閣

概要

期日前投票期間や投票所の数,選挙啓発活動や議員定数の不均衡などの投票環境条件に注目し,それらがどのように投票率に影響を与えているのかを実証的に論じます。日本の有権者を対象とした投票率についての最新の研究成果をわかりやすく解説!

目次
  • 第1章 何が投票率を高めるのか?
  • 第2章 投票所が近いと投票に行く?─投票所と投票参加
  • 第3章 「投票日,雨の予報」は投票率に影響する?─投票期間と投票参加
  • 第4章 投票啓発活動は投票率向上に効果的?─社会規範と投票参加
  • 第5章 なぜ地方で投票率が高いのか?─議員定数不均衡と投票参加
  • 第6章 新しい政党の参入は投票率を高める?─政党と投票参加
  • 第7章 女性議員が増えると投票率は上がる?─議員属性と投票参加
  • 第8章 投票率をどうやって測る?─データとしての投票参加
  • 第9章 投票率が向上すると政治は変わる?─投票参加の政策的帰結

ドミニク・マカイヴァー・ロペス, ベンス・ナナイ, ニック・リグル『なぜ美を気にかけるのか―感性的生活からの哲学入門』勁草書房

概要

おしゃれ、ダサい、ステキ、つまらない。こうした日々の感動をなぜ大事にするのか。生活の彩りの意味を問うあたらしい哲学入門。

お気に入りの服を着る、おいしいものを食べる、好きな映画をみる――こうした日常のさまざまな美的選択は、人生にどのような意味をもたらすのか。人はなぜ美的な暮らしを送るのか。現代美学を代表する論者たちが3つの答えを提案する、哲学入門の授業向けに書かれた教科書。著者たちによる座談会とティーチングガイドつき。 
【原著】Dominic McIver Lopes, Bence Nanay, Nick Riggle, Aesthetic Life and Why It Matters, Oxford University Press, 2022

目次
  • 教師向けのノート
  • イントロダクション
  • 1 経験を解き放つ[ベンス・ナナイ]
  • 2 美的生活──個性、自由、共同体[ニック・リグル]
  • 3 足を踏み入れる──美的生活における冒険[ドミニク・マカイヴァー・ロペス]
  • ブレイクアウト
  • 訳者あとがき
  • 索引

土屋敦, 野々村淑子編『医学が子どもを見出すとき―孤児、貧困児、施設児と医学をめぐる子ども史』勁草書房

概要

18〜20世紀にかけ規範的な子ども像が確定していくプロセスに医学がいかに関与したかを問う、「逸脱」と医学をめぐる子ども史。

貧困階層における生殖・再生産への医療的介入、子ども司法や貧児、孤児などの処遇に医療はどのようにかかわってきたのか。フロイト派の展開や知能検査などの心理学・児童精神医学上のツールの展開は「逸脱児」のラベリングにどう寄与したのか──子どもと発達に介在する医学のあり方の編年史を子ども史の視座から解き明かす。

目次
  • 序 章 医学が子どもを見出すとき[野々村淑子]
    第Ⅰ部 「医学」による「子ども」の発見
  • 第一章 一八世紀末アメリカの医学と子ども・家族の交差――ベンジャミン・ラッシュの医学理論と社会改革思想、家庭生活の連関に着目して[乙須 翼]
  • 第二章 一八世紀イギリスの助産救貧をめぐる産み育てる身体の科学化――子どもの生命への配慮と女性産婆[野々村淑子]
  • 第三章 一九〇〇年前後の岡山孤児院における看護と病気――看護婦の経歴と仕事に注目して[稲井智義]
    第Ⅱ部 医学調査と衛生管理
  • 第四章 二〇世紀初頭ドイツにおける「危険にさらされた子どもたち」の保護と医療の介入――「ドイツ児童保護センター」での取り組みを中心に[杉原 薫]
  • 第五章 二〇世紀転換期イギリスにおける子どもの栄養をめぐる「科学」的な議論――学校給食実施過程に焦点をあてて[草野 舞]
  • 第六章 植民地朝鮮における都市細民「土幕民」の社会医学的調査――「生れながらの土幕民」の発見[田中友佳子]
    第Ⅲ部 発達心理学・児童精神医学
  • 第七章 保護複合体と愛着理論――「論争」期の精神分析的子ども像をめぐって[松本由起子]
  • 第八章 アメリカ少年司法における医学の導入と展開――フィラデルフィア市立裁判所の医療活動(一九一四年~一九二七年)に着目して[大森万理子]
  • 第九章 「戦災孤児」への心理学的関心――第二次世界大戦後の近江学園における知能検査と教育実践に着目して[野崎祐人]
  • 第一〇章 愛着理論の再浮上と施設養護の「家庭化」――一九九〇~二〇〇〇年代における乳児院の変遷を中心に[土屋 敦]
  • 終 章 孤児、貧困児、施設児と医学をめぐる子ども史[土屋 敦]
  • あとがき
  • 人名索引
  • 事項索引
  • 執筆者紹介

アンドレイ・マーモー『現代法哲学入門』勁草書房

著:アンドレイ・マーモー, 著:森村進
概要

「法とは何か」を哲学的に理解する。現在活躍中の最も重要な法哲学者が、法哲学の中核たる法概念論を精緻に議論する、現代の入門書。

現代の法思想の主要な問題を探求することに加えて、ケルゼン、ハート、ラズ、ドゥオーキン、ウォルドロンらによる21世紀初頭の理論状況を的確に整理し、批判的に検討を施す。様々の理論を中立的に解説するにとどまらず、法の本質を深く探求、地を這うような思考の道筋を明快に示す第一級の書。基礎法学翻訳叢書第一弾。 
【原著】Andrei Marmor, Philosophy of Law(Princeton Foundations of Contemporary Philosophy Book 10)(Princeton University Press, 2014)

目次
  • 序論[森村進 訳]
  • 第1章 法の純粋理論?[永石尚也 訳]
  • 第2章 法の基礎にある社会的ルール[永石尚也 訳]
  • 第3章 権威・コンヴェンション・法の規範性[森村進 訳]
  • 第4章 法は道徳によって決定されるか?[服部久美恵 訳]
  • 第5章 法哲学は規範的か?[伊藤克彦 訳]
  • 第6章 法の言語[伊藤克彦 訳]
  • 訳者解説[伊藤克彦]
  • 監訳者あとがき[森村進]
  • 文献表
  • 索引