新刊紹介

新刊紹介_20230715

 
新刊紹介

ブリュノ・ラトゥール『パストゥールあるいは微生物の戦争と平和、ならびに「非還元」』以文社

概要

還元主義の酔いから覚めて――。
2022年に逝去した科学人類学の巨星、未だ汲み尽くせぬその思想の根本である名著、ついに邦訳。

1984年に刊行された本書は、生涯、ラトゥール自身がその着想の源泉としたルイ・パストゥールによる微生物研究の、その社会的側面を分析する第Ⅰ部「パストゥールあるいは微生物の戦争と平和」、そしてラトゥールの哲学・思想の根本をなすと言える「非還元」の思想が展開される第Ⅱ部「非還元」からなる。
パストゥールおよびパストゥール派の研究を通じて、自然・科学・社会の関係を問い直し、ラトゥールは科学を社会に還元することからも、両者を区別することからも遠ざかっていく。
「如何なるものもおのずから他の如何なるものにも還元可能でも還元不可能でもない」
このように定義される「非還元性の原則」は、人やモノを対称的に扱うラトゥールのアクターネットワーク(行為者の網)理論のまさに中核をなしている。
ラトゥール哲学・思想を知るための必読の書。

目次
  • 新版〔二〇〇一年〕への序文
  • 第Ⅰ部 パストゥールあるいは微生物の戦争と平和
    資料と方法
    第一章 微生物の力と弱さ、衛生学者の弱さと力
    第二章 あなたたちが微生物の導き手になるのだ
    第三章 戦争と平和
  • 第Ⅱ部 非還元
    導 入
    第一章 弱さから強さへ
    第二章 結合の論理
    第三章 人間の論理
    第四章 科学の「非還元」
  • 訳者解題(荒金直人)
  • 用語索引
  • 原語と訳語の対照表
  • 文献目録

トマ・ピケティ『自然、文化、そして不平等―国際比較と歴史の視点から』文藝春秋

概要

世界的ベストセラー『21世紀の資本』のトマ・ピケティが、「格差」について考察。

「r>g」の衝撃から10年。戦争、気候危機、経済不安などを受け、世界は”第二次ピケティ・ブーム”へ。

その最新思想エッセンスを、ピケティみずからコンパクトな一冊にまとめたのが本書である。

・「社会は平等に向かうべき」との思想はいつ始まったのか
・所得格差が最も少ない地域、最も多い地域は?
・「所得格差」と「資産格差」について
・累進課税制度の衝撃
・世界のスーパーリッチたちの巨額税金逃れ問題について
・ジェンダー格差をどう考えるか?
・環境問題の本質とは、「自然資本の破壊」である
・炭素排出制限量において、取り入れるべきアイデア
・「戦争や疫病が平等を生む」という定説は本当か

ーー「持続可能な格差水準」は、存在するのだろうか?

目次
  • 自然の不平等というものは存在するか? 平等への長い歩み
  • 不平等および不平等を生む体制の歴史的変遷
  • 所得格差
  • 資産格差
  • ジェンダー格差
  • ヨーロッパにみられる不平等への歩みのちがい
  • スウェーデンの例
  • 福祉国家の出現——教育への公的支出
  • 権利の平等の深化に向けて
  • 累進課税
  • 債務をどうするのか?
  • 自然と不平等
  • 結論

市田良彦『フーコーの〈哲学〉―真理の政治史へ』岩波書店

概要

ミシェル・フーコーとは何者なのか。常に変化した思想家の変わらぬ核心には、真理をめぐる〈哲学〉が存在した。「私は哲学者ではない」と語ったフーコー自身の言葉に抗いながら「言語」「存在(論)」「歴史」というフーコーの重要概念を読み解いていく本書は、異色のフーコー論にして、現代思想の到達点である。

目次
  • はじめに
  • 第1部 言 語
    第1章 〈知の考古学〉
      1 考古学という方法
      2 言説の理論あるいは「社会形成体」と「言説形成体」
      3 言表なるもの
      4 〈知の考古学〉における「真理」
    第2章 ソフィストとパレーシアスト──古代の真理ゲーム
      1 「真のなかにいる」と「真理のなかにいる」──アリストテレスを読むフーコー
      2 ソフィストと最初の「ソフィスト」
      3 オイディプスの「半分ゲーム」
      4 イオンの「半分ゲーム」
  • 第2部 存 在
    第3章 フィクション、真理、主体
      1 パレーシアから〈奇怪な存在論〉としての文学へ──「ニーチェ講義」を経由して
      2 フィクションである言語、非存在である存在──「距たり・アスペクト・起源」
      3 フィクション、寓話、経験、真理──「寓話の背後」
      4 主体とその真理──「外の思考」(1)
      5 バンヴェニストの影──「外の思考」(2)
      6 一九六七年の合流
    第4章 歴史の分割と「存在関数」
      1 哲学のはじまり──イポリットの影
      2 ニーチェと系譜学の概念
      3 言表と言説、再び
  • 第3部 真理─政治─歴史
    第5章 一九七〇年代の「転換」
      1 真理と誤謬と規範──カンギレムの影
      2 「真理の政治学」──デュメジルの影
      3 人間学から「生物」学へ、あるいは白痴の「放下」
      4 〈性の歴史〉と〈統治性の歴史〉
      5 中間地帯〈かつet〉で起きること
      6 真理ゲーム──デュメジルとともに
  •  注
  •  あとがき
  •  文献一覧

鈴木貴之編『人工知能とどうつきあうか―哲学から考える』勁草書房

概要

主体としての人工知能から道具としての人工知能へ。第3次人工知能ブームの到来から10年が経つ今、人間と人工知能の関係を再考する

深層学習を用いた人工知能の急速な進展によって、2010年頃に第3次人工知能ブームが到来した。しかし、生物のように多様な課題を行うことができる汎用知能を作るという究極目標を実現する見通しはまだ得られていない。本書では哲学の知見を踏まえ、人工知能を人間の能力を拡張する道具と捉えて建設的な関係性を構築する道を探る。

目次
  • はじめに[鈴木貴之]
  • 第1章 人工知能に関する2つの見方――主体としての人工知能と道具としての人工知能[鈴木貴之]
  • 第2章 AI対IA――対立の構図に隠された真の主題[柴田崇]
  • 第3章 人工知能と現象の理解[今泉允聡]
  • 第4章 深層学習後の科学のあり方を考える[大塚淳]
  • 第5章 医療AIの倫理――倫理的な判断をAIが担う、未来の患者・家族・医療従事者関係[中澤栄輔]
  • 第6章 ナッジ&ブーストエージェントによる意思決定支援[小野哲雄]
  • 第7章 創造性という知的徳を人工知能から学ぶ[植原亮]
  • 第8章 人工知能と人間らしさ[立花幸司]
  • 第9章 設計の観点から見た人工知能[上杉繁]
  • 第10章 人工物の倫理性と人工知能[堀浩一・関口海良]
  • あとがき
  • 人名索引
  • 事項索引

津阪直樹『ルポ リベラル嫌い―欧州を席巻する「反リベラリズム」現象と社会の分断』亜紀書房

概要

〈「もう、リベラルはうんざりだ」?〉
極右に惹かれる若者たち、移民を不安視する労働者たち、敵視される団塊世代、そして高まるEUへの不信感……。

近年、欧州で広がる「反リベラリズム」感情の底流には、一体何があるのか?

EU本部の置かれるベルギー・ブリュッセルに赴任した著者が、揺れる欧州の現場に取材し、不安の根源に迫る、渾身のルポルタージュ!

目次
  • プロローグ……リベラリズムの行方
  • 第1章…………若者 vs. 団塊世代?──敵視されるリベラル
  • 第2章…………移民とグローバリゼーション──広がる経済不安
  • 第3章…………緊縮がもたらした分断──リベラル・パラドックス
  • 第4章…………ブレグジットの背後にあるもの──取り残された人々の怒り
  • 第5章…………ポルトガルの奇跡──「反リベラルのメロディー」を越えて
  • 第6章…………新型コロナとインフレ──問われるリベラリズム
  • エピローグ……未来へと一歩を踏み出す

大槻奈巳『派遣労働は自由な働き方なのか―転換期のなかの課題と展望』青弓社

概要

労働人口の減少などを背景に、職務を軸にした雇用が広まりつつある現在、派遣労働者はジョブ型雇用の代表格である。「自由な働き方」というイメージもある彼/彼女たちは、どのような思いで働き、自身のキャリアと向き合い、ライフコースを歩んでいるのか。派遣労働を取り巻く困難や課題はどこにあるのか。

大きな転換点になった2015年の労働者派遣法の改正で掲げられた派遣期間の制限見直しやキャリアアップ措置、待遇の改善などの実態を、派遣労働者40人や派遣元事業主などへのインタビュー、1,650人へのウェブ調査を組み合わせて明らかにする。

そして、雇用の安定やキャリアの向上が必ずしも実現しておらず、給与や雇用形態で不安を抱えながら働くことを余儀なくされている現状をあぶり出す。同時に、男女間の格差やハラスメントの実態、コロナ禍での「被害」も浮き彫りにする。

5年に及ぶ調査から派遣労働の実情を照らし出し、それを通して正社員の労働実態や多様な働き方の可能性も検証する。

目次
  • はじめに 大槻奈巳
  • 第1章 事務職派遣労働者の直接雇用転換と選択 江頭説子
  • 第2章 事務派遣労働者の働き方と自律性 大槻奈巳
  • 第3章 派遣労働を積極的に選択するのは誰か 鵜沢由美子
  • 第4章 派遣労働の現状と課題――派遣労働者として働く人たちの自己概念に注目して 田口久美子
  • 第5章 派遣労働者の働く現状と満足度――ウェブ調査の結果から 大槻奈巳
  • 第6章 事務職派遣労働者の無期雇用派遣転換と選択 江頭説子
  • 第7章 二〇一五年派遣法改正が増幅した「正社員」の多様化――無期雇用派遣社員とは:技術者を中心として 鵜沢由美子
  • 第8章 派遣労働者をめぐるハラスメント 田口久美子
  • 補論 新型コロナウイルスの影響と派遣労働 江頭説子
  • おわりに 大槻奈巳