参考文献紹介

『誰も正常ではない―スティグマは作られ、作り変えられる』の参考文献

 
参考文献紹介
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著者ロイ・リチャード・グリンカー
訳者高橋洋
発行みすず書房
発売日2022/05/09

正常・異常をめぐるスティグマは、ただ漫然と生じたものではない。科学や医学はつねに権威をもって「異常」とすべきもののカテゴリーを作りだし、それはコミュニティを通して社会的・文化的に学習されてきた。本書はおもに精神疾患や発達障害のスティグマを中心に、スティグマが構築と再構築を重ねてきた変遷の力学を、18世紀以降、複数の戦時期を経て、高度に経済化した今日の社会に至るまでたどる。
しかし、だからこそスティグマとは本質的に、私たちの手で流れを変えうる「プロセス」であると著者は言う。汚辱や秘匿がいまだに残っている一方で、もはや「誰も正常ではない」と言えるほど、正常者・異常者を語るスティグマはその足場を失い、心身の障害を人間の多様性の一部として受け容れる潮流こそが勢いを集めつつある。
資本主義、戦争、身体‐心という三本の軸に沿って、本書は構成されている。著者は文化人類学者ならではの視点で、近年の「生物医学」化や、PTSD概念の功罪、非西欧的な価値観にも触れながら、歴史を多角的に描き出すことに成功している。
加えて、いずれもアメリカ精神医学界のキーパーソンであった著者の曾祖父、祖父、父、そして自閉症の娘をもつ著者自身という、四世代の個人の視点からミクロに捉えた史実が織り込まれているのも、本書のユニークな趣向だ。

  • はじめに──ベドラムから戻る道
  • 第I部 資本主義
    第1章 「自立」のイデオロギー
    第2章 精神病の発明
    第3章 分裂した身体──性と分類
    第4章 分裂した心
  • 第II部 戦争
    第5章 戦争のさまざまな帰結
    第6章 祖父がフロイトから得たもの
    第7章 戦争はやさし
    第8章 ノーマとノーマン
    第9章 忘れられた戦争からベトナム戦争へ
    第10章 心的外傷後ストレス障害
    第11章 病気の予期
  • 第III部 身体と心
    第12章 病気の可視化
    第13章 他のどんな病気とも変わらない病気?
    第14章 ECTという魔法の杖
    第15章 心について話す身体
    第16章 ネパールで身体と心の橋渡しをする
    第17章 リスクを負うことの尊厳
  • 結論──スペクトラムについて
  • 謝辞
  • 訳者あとがき
  • 原注
  • 索引

この記事では『誰も正常ではない―スティグマは作られ、作り変えられる』に記載の参考文献(邦語)についてご紹介します。

はじめに──ベドラムから戻る道

アーヴィング・ゴッフマン(2001)『スティグマの社会学―烙印を押されたアイデンティティ』せりか書房
著:アーヴィング ゴッフマン, 原名:Goffman,Erving, 翻訳:毅, 石黒
ブルーノ・ベテルハイム(1992)『生き残ること』法政大学出版局
著:ブルーノ ベテルハイム, 原名:Bettelheim,Bruno, 翻訳:利数, 高尾
ミシェル・フーコー(2020)『狂気の歴史<新装版>: 古典主義時代における』新潮社
トクヴィル(2015)『アメリカにおけるデモクラシーについて』中央公論新社
アーサー・クラインマン(1996)『病いの語り:慢性の病いをめぐる臨床人類学』誠信書房
著:アーサー クラインマン, 原名:Kleinman,Arthur, 翻訳:重幸, 江口, 翻訳:豪志, 上野, 翻訳:紳, 五木田

第1章 「自立」のイデオロギー

エリザベス・M・トーマス(1977)『ハームレス・ピープル―原始に生きるブッシュマン』海鳴社
著:エリザベス・M.トーマス, 翻訳:荒井 喬, 翻訳:辻井 忠男
ノーラ・エレン・グロース(2022)『みんなが手話で話した島』早川書房
著:ノーラ エレン グロース, 翻訳:佐野 正信
オリバー・サックス(1996)『手話の世界へ』晶文社
著:オリバー サックス, 原名:Sacks,Oliver, 翻訳:正信, 佐野
マーシャル・サーリンズ(2012)『石器時代の経済学 〈新装版〉』法政大学出版局
シルヴィア・フェデリーチ(2017)『キャリバンと魔女』以文社
著:シルヴィア・フェデリーチ, 翻訳:小田原 琳, 翻訳:後藤 あゆみ
アラン・マクファーレン(1990)『イギリス個人主義の起源―家族・財産・社会変化』リブロポート
アンドリュー・ソロモン(2003)『真昼の悪魔〈上〉―うつの解剖学』原書房
著:アンドリュー ソロモン, 原名:Solomon,Andrew, 翻訳:理華, 堤
スティーヴン・J・グールド(2008)『人間の測りまちがい 上: 差別の科学史』河出書房新社
著:スティーヴン・J. グールド, 原名:Gould,Stephen Jay, 翻訳:善次, 鈴木, 翻訳:靖子, 森脇

第2章 精神病の発明

スーザン・ソンタグ(1982)『隠喩としての病い』みすず書房
著:スーザン ソンタグ, 原名:Sontag,Susan, 翻訳:太佳夫, 富山
ミシェル・フーコー(2020)『狂気の歴史<新装版>: 古典主義時代における』新潮社
ジョージ・L・モッセ(2023)『ナショナリズムとセクシュアリティ: 市民道徳とナチズム』筑摩書房

第3章 分裂した身体──性と分類

エレイン・ショーウォーター(1990)『心を病む女たち―狂気と英国文化』朝日出版社
著:エレイン ショーウォーター, 翻訳:晴子, 山田, 翻訳:美和子, 薗田
デイヴィッド・M・ハルプリン(1995)『同性愛の百年間―ギリシア的愛について』法政大学出版局
著:デイヴィッド・M. ハルプリン, 原名:Halperin,David M., 翻訳:浩司, 石塚
W・E・B・デュボイス(1992)『黒人のたましい』岩波書店
著:W.E.B. デュボイス, 原名:寅秀, 黄, 原名:DuBois,William Edward Burghardt, 翻訳:始, 木島, 翻訳:重俊, 鮫島, 翻訳:寅秀, 黄

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