赤井浩太, 松田樹『批評の歩き方』人文書院
知の冒険マップ
ここは砂漠か新天地か。noteの人気連載「批評の座標」、ついに書籍化。各論考を加筆修正し、クエストマップ、座談会、ブックリストを増補。さまざまな知の旅路を収録した「批評ガイド」の決定版。新たな冒険者をもとめて!
【寄稿者一覧】(掲載順)
赤井浩太(編者)/小峰ひずみ/松田樹(編者)/韻踏み夫/森脇透青/住本麻子/七草繭子/後藤護/武久真士/平坂純一/渡辺健一郎/前田龍之祐/安井海洋/角野桃花/古木獠/石橋直樹/岡田基生/松本航佑/つやちゃん/鈴木亘/長濵よし野
【対象の批評家一覧】
小林秀雄/吉本隆明/柄谷行人/絓秀実/東浩紀/斎藤美奈子/澁澤龍彦/種村季弘/保田與重郎/西部邁/福田恆存/山野浩一/宮川淳/木村敏/山口昌男/柳田國男/西田幾多郎/三木清/江藤淳/鹿島茂/蓮實重彦/竹村和子……
カバー・本文デザイン 宮越里子
カバーイラスト 太田陽博
- 序文――旅する理由(松田・赤井)
- 第1部
批評の座標
クエストマップ(作品遍歴) - 第2部
座談会
ブックガイド
書き込みカスタムマップ - 編集後記
ジャン・アメリー『老いについて―反乱と諦念』みすず書房
〈老いゆくなかで私たちは純粋時間の無世界的な内的感覚となる。老いゆく者として私たちは自分の身体からよそよそしくなり、それと同時に身体の不活発な塊に以前よりも近くなる。私たちが人生の頂点を踏み越えると、自己を構想することが社会によって禁じられ、文化は私たちにはもう理解できない重荷の文化となって、むしろ私たちが精神の屑鉄として時代の廃棄物の山にふさわしいと知らされもする。老いるなかで私たちは、ついには死につつ生きなくてはならない。けしからぬ期待を抱き、卑下のためではなく自尊心を傷つけられつつ比類ない屈辱をこうむりながら。〉
『罪と罰の彼岸』で知られ、ホロコースト体験者、レジスタンスで捕まった後さまざまな拷問も経験した著者が50代半ばに、本書は書かれた。時間の観念や他者の視線、社会とのかかわり方の変化、孤独感、死に向かうプロセスのようなものが、プルーストはじめ数々の文学作品ともども描かれる。
反乱と諦念を基調に、多くの「老い」の本とは一線を画す思索的・哲学的エッセイ。本書執筆から10年後に著者は自死した。
- 前書き
- 第四版への前書き
- 現存と時間の経過
- 自身によそよそしくなる
- 他者の視線
- 世界をもはや理解できない
- 死につつ生きる
- 訳注
- 訳者後書き
佐藤邦政ほか『認識的不正義ハンドブック―理論から実践まで』勁草書房
認識的不正義をめぐる研究動向を知り、日本社会で生じている実践的問題について考えるために。日本初のハンドブック、待望の刊行!
ミランダ・フリッカーの『認識的不正義』が2007年に刊行されて以来、認識論・倫理学・フェミニスト哲学をはじめとした各分野において、膨大で多様な議論がなされてきた。本書ではその理論的な深さと広がりを概観するとともに、日本社会で生じている認識的不正義の問題に取り組み、読者が自ら考えるための指針となることを目指す。
- はしがき[佐藤邦政]
- Ⅰ 基本的概念
第1章 認識的不正義の展開[佐藤邦政]
第2章 認識的不正義の分類[榊原英輔]
第3章 認識的不正義の害[吉川千晴]
第4章 認識的不正義の是正[飯塚理恵] - Ⅱ 認識的不正義と哲学分野
第5章 認識的不正義と認識論[笠木雅史]
第6章 認識的不正義と倫理学[小林知恵]
第7章 認識的不正義と言語哲学[三木那由他]
第8章 認識的不正義と政治哲学[神島裕子]
第9章 認識的不正義と現象学[池田 喬] - Ⅲ 現場の実践で起きている認識的不正義
第10章 認識的不正義と性暴力被害[佐々木梨花]
第11章 医療における認識的不正義[榊原英輔]
第12章 当事者研究とコ・プロダクション[熊谷晋一郎]
第13章 水俣を見てしまった責任[吉川 孝]
第14章 入管行政における認識的不正義[岸見太一] - あとがき[佐藤邦政・神島裕子・榊原英輔・三木那由他]/事項索引/人名索引
ソフィ・カル『限局性激痛』平凡社
フランスを代表する現代アーティスト、
ソフィ・カルの痛みと治癒の物語、待望の邦訳。
1999〜2000年、2019年に東京・原美術館で展示された「ソフィ・カル―限局性激痛」に未邦訳分を新たに訳出した完全版。
ソフィ・カルの希望により、日本語版の造本は布張りのカバーに箔押しのタイトル、赤金のインクで三方を塗り上げた。
近現代美術キュレーター・岡部あおみによる日本語版解説を付す。
【本書より】
限局性激痛:(医学用語)局所の鋭い痛みのこと。
10月25日に出発したときは、この日が92日のカウントダウンへの始まりになるとは思いもよらなかった。
その果てに待っていたのはありふれた別れだったが、とはいえ私にとってそれは、人生で最大の苦しみだった。
私はこの滞在のせいにした。
フランスに帰国した1985年1月28日、厄払いのために、滞在中の出来事よりも私の苦しみを語ることにした。
そのかわりに、話し相手になってくれた友人や偶然出会った人たちにこう尋ねた。
「あなたがいちばんつらかったのはいつですか?」
このやりとりは、自分自身の話をさんざん人に話して聞かせて、もう語りつくしたと感じるか、他の人たちの苦しみと向き合って、自分の痛みが相対化されるまで、続けることにした。
この方法には、根治させる力があった。
メリッサ・M・シュー『女の子のための西洋哲学入門―思考する人生へ』フィルムアート社
これまでの「男性のための哲学」ではない、もうひとつの哲学へ。
「女の子」が成長し大人になっていく過程で考えるべき哲学の問いを解きほぐし、
「自由に思考を広げること」、そして「自分の力で考えながら生きること」の楽しさとかけがえのなさを説く。
女性哲学者たちがいざなう、かつてない哲学入門・画期的エンパワメントの書!
あなたは、哲学の歴史のなかで、女性の哲学者の名前を10人挙げられますか? 3人ならどうでしょう? ほとんどの人にとって、それはむずかしいことなのではないでしょうか。
女性は長い間、哲学の分野で疎外されてきました。なぜなら、彼女たちの貢献は歴史的に男性たちの業績として扱われたり、あたかも貢献など存在しないかのように葬り去られたりしてきたからです。
本書は、女性哲学者たちが「自分が18歳から20歳くらいだった頃を振り返り、自分自身の疑問を見つけ、知的に成長しつつあるその時期に、どんな本があったらよかったか、そしてその本にどんな章があったらよかったか」というテーマで執筆した、新しい「哲学への扉」とでもいうべき本です。
女の子や若い女性を哲学的な思考へと招き入れ、哲学的に物事を考えてみるよう勇気づけるものです。
哲学に触れ始めたばかりのひとにもおすすめできるこの本は、哲学的な問いとは何か、そしてそれが女の子や女性の生活や人生にどのように当てはまるのか、幅広い視点と思考を広げていくヒントを提供します。
本書では、哲学のおもな分野(形而上学、認識論、社会哲学・政治哲学、倫理学)が扱われます。どこからでも読める章立てなので、構える必要はありません。ジェンダーと哲学の交差点について興味のあるひとにとって必ず役立つ1冊となるでしょう。
例えば、アイデンティティや自律といった自己のあり方、科学や芸術や疑いといった知のあり方、人種やジェンダーといった社会構造や権力関係が私たちの現実をどのように形づくるのか、そして、怒りや共感や勇気などの感情と倫理の関わりを現実の問題の中でどのように考えていけるのか。
2020年代の今を生きる私たちにとっても切実で、好奇心を刺激する哲学的なテーマを、生き生きと魅力的な文体で、親しみやすく説いていきます。
いままさに女の子であるあなた、あの頃女の子だったあなた、これから女の子になっていくあなた、女の子と見なされたことのあるあなた、女の子のことをもっと理解したいあなたへ──すべてのひとを歓迎する、私たちのための哲学への招待です。
- 監訳者まえがき
- 謝辞
- プロローグ ペルセポネー──あなたへの招待状 メリッサ・M・シュー/西條玲奈訳
- はじめに メリッサ・M・シュー&キンバリー・K・ガーチャー/三木那由他訳
- 第Ⅰ部 自己
第1章 アイデンティティ(同一性)──世界内存在と生成 ミーナ・ダンダ/酒井麻依子訳
第2章 自律──自分に正直でいること セレン・J・カダー/筒井晴香訳
第3章 プライド──徳と悪徳の複雑さ クラウディア・ミルズ/飯塚理恵訳
第4章 問い──哲学の核心 メリッサ・M・シュー/横田祐美子訳
第5章 自己知──反省の重要性 カレン・ストール/安倍里美訳 - 第Ⅱ部 知ること
第6章 論理学──フェミニストアプローチ ジリアン・ラッセル/山森真衣子訳
第7章 疑い──認識と懐疑主義 ジュリアン・チャン/村上祐子訳
第8章 科学──客観性の正体を暴く サブリナ・E・スミス/村上祐子訳
第9章 技術──経験と媒介された現実 ロビン・L・ゼブロフスキー/西條玲奈訳
第10章 芸術──見ること、考えること、制作すること パトリシア・M・ロック/青田麻未訳 - 第Ⅲ部 社会構造と権力関係
第11章 信用性──疑いに抵抗し、知識を捉え直す モニカ・C・プール/木下頌子訳
第12章 言語──コミュニケーションでの集中攻撃(パワープレイ) エリザベス・キャンプ/三木那由他訳
第13章 人種──「人間」という概念に見られる存在論上の危険性 シャノン・ウィナブスト/権瞳訳
第14章 ジェンダー──二分法とその先に向けて シャーロット・ウィット/清水晶子訳
第15章 承認──クィア・エイリアン・ミックスの意識を生きる シャンティ・チュウ/清水晶子訳 - 第Ⅳ部 現実の中で考える
第16章 怒り──抵抗の身振りとしてメドゥーサ話法を利用する ミーシャ・チェリー/西條玲奈訳
第17章 コンシャスネス・レイジング(意識高揚)──社会集団と社会変革 タバサ・レゲット/木下頌子訳
第18章 ツェデク──なすべきことをする デヴォラ・シャピロ/鬼頭葉子訳
第19章 共感──人間と人間以外の動物との絡み合う関係性 ローリー・グルーエン/鬼頭葉子訳
第20章 勇気──作動する改善説 キンバリー・K・ガーチャー/酒井麻依子訳 - 監訳者あとがき/著者紹介/訳者紹介/索引
エドゥアール・グリッサン『カリブ海序説』インスクリプト
クレオール思想を代表する思想家、文学者の大著。その思想のエッセンスを伝える代表作の完訳。20年余の訳業を経て、待望の刊行成る!
カリブ海のフランス海外県・マルチニックにあって、その歴史・社会構造・言語・人々の心性のありようを、アンティル(カリブ海諸国)、とくにマルチニックに関わる厖大な言説を収集・分析しつつ明らかにし、フランスへの依存を逃れ、主体的な民衆による自立を訴求する。全篇を覆う危機意識、はるかに展望される独立への眼差し。多様なジャンルで著述活動を行なってきたグリッサンの結節点であり、その思想のエッセンスがあますところなく示された、最大にして最重要作。
- 序章
- 第一巻 知っていること、確かならざるもの
- 第二巻 関係の詩学
- 第三巻 砕け散った言説
- 第四巻 アンティルの未来
- 附録/ディアスポラの図/用語解説/日付と場所/原註
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