新刊紹介

新刊紹介_20230719

 
新刊紹介

マノン・ガルシア『生まれつき男社会に服従する女はいない』みすず書房

概要

「完全に自立した筋金入りのフェミニストの女性ですら、ふと気がつくと、男の征服者然とした眼差しを好ましく思ったり、パートナーの腕のなかで言いなりの存在になることを欲したり、目立った華々しい活動よりもこまごまとした家事──かいがいしくリネン類を畳んだり、家族のために見栄えの良い朝食を用意したりすること──を好ましく感じている。このような願望、このような喜びは、はたして女の自立と両立可能なのだろうか」(本文冒頭より)。
本書が扱う女の「服従」とは、奴隷のようになることとは違う。哲学上、服従は、人間にとって最も崇高な自由を自ら手放すことであり不道徳とされてきた。ところが女の場合は違う。服従こそが女の道徳であり規範だというのである。そして服従しない女には懲罰が待ち受け、服従する女は利益を得ることによって、服従は再生産され、女の振る舞いとして浸透した。このような服従について、フェミニズムは問うことを避けてきた。女の劣等生の証、女はそれが自然、好きで服従している、と言いたい勢力に与しかねないからである。
本書はこの難問に正面から取り組み、女を服従に同意させる原理を精緻に描き出した。指針はシモーヌ・ド・ボーヴォワール『第二の性』。長大で難解なこの古典のポイントをわかりやすく提示し、女も男も、全ての人がよりよく生きる可能性を拓く。

目次
  • 第1章 哲学上のタブー
  • 第2章 服従が女らしいのか、女らしさが服従なのか
  • 第3章 女とは何か
  • 第4章 わかりにくい服従
  • 第5章 服従という経験
  • 第6章 服従とは疎外である
  • 第7章 服従した女の〈身体‐客体〉
  • 第8章 心地よさか抑圧か――服従の両義性
  • 第9章 自由と服従
  • 結論――これからのこと
  • 訳者あとがき
  • 原注

キャス・サンスティーン『同調圧力―デモクラシーの社会心理学』白水社

著:キャス・サンスティーン, 翻訳:永井大輔, 翻訳:高山裕二
概要

同調はどのようにして生じるのか? カスケードや集団極性化に基づきながら、デモクラシーの社会心理を描いた記念碑的著作。

目次
  • 謝辞
  • はしがき
  • 序章  社会的影響の力
  • 第一章 同調はどのようにして生じるのか
  • 第二章 カスケード
  • 第三章 集団極性化
  • 第四章 法と制度
  • 結論  同調とそれへの不満
  • あとがき/註/索引

ブレイク・スコット・ボール『スヌーピーがいたアメリカ―『ピーナッツ』で読みとく現代史』慶應義塾大学出版会

著:ブレイク・スコット・ボール, 翻訳:今井亮一
概要

『ピーナッツ』に込められた政治的メッセージとは!?
「スヌーピー」で知られる漫画『ピーナッツ』は、冷戦期のアメリカ社会とどう向き合ったのか。そこに作者チャールズ・M・シュルツが込めたメッセージとは。コミック、ファンレター、未公開資料などから探る、戦後アメリカのすがた。

20世紀を代表するキャラクターの一つ、「スヌーピー」を生み出した漫画『ピーナッツ』。無邪気でかわいらしい登場人物たちとは対照的に、そこに込められていたのは冷戦期のアメリカ社会が直面する現実に対するきわめて政治的なメッセージだった──。
半世紀にわたって連載されたコミックはもちろん、各種世論調査や新聞・雑誌記事、キャラクターが利用された広告・パンフレット、さらには作者チャールズ・M・シュルツに寄せられたファンレターに至るまで精緻に分析。ピーナッツ・ギャングの目を通して見るもう一つの戦後アメリカ史。

目次
  • 序章
  • 第1章 きみはいいひと、チャールズ・シュルツ――アメリカンオリジナルの形成
  • 第2章 未来が怖い――『ピーナッツ』の起源としての冷戦
  • 第3章 チャーリー・ブラウンに祝福あれ――『ピーナッツ』と福音派カウンターカルチャー
  • 第4章 クロスハッチ・イズ・ビューティフル――フランクリンに見る肌の色は無関係(カラーブラインドネス)と、人種統合の限界
  • 第5章 スヌーピーはベトナムのヒーロー――『ピーナッツ』とベトナム戦争への心理的葛藤と共感
  • 第6章 エネルギーの節約はいいことだ――『ピーナッツ』における自然と環境倫理
  • 第7章 「私にはヴィジョンがあるの、チャーリー・ブラウン」――女性運動の時代における『ピーナッツ』(性役割、妊娠中絶権、性教育)
  • エピローグ 帰っておいで、スヌーピー
  • 訳者あとがき
  • 索引

根川幸男『移民船から世界をみる―航路体験をめぐる日本近代史』法政大学出版局

概要

航空機が身近になるまで、外国に行くには船に乗るしかなく、庶民にとって最も一般的な海外旅行は移民だった。数か月にわたる船旅で、彼らはどのような体験をしたのか。はじめて見る異国の風景、感染症の発生や食事をめぐる暴動、船内学校や運動会、赤道祭など、従来の移民研究からこぼれ落ちた移民船の体験について、航海日記や多くの資料を用い、その文明史的意味を考察する。

目次
  • はじめに
  • 序章 人びとはどのように海を渡ったのか?:移民船をめぐる課題群
  • 第一章 明治元年のハワイ行き航海:佐久間米松の「日記」を読む
  • 第二章 台湾への人流と物流:内台航路をめぐる人びと
  • 第三章 明治末期の南米移民船:横山源之助の航路体験
  • 第四章 日本郵船の南米東岸航路:田辺定「移民輸送日誌」を読む
  • 第五章 大阪商船の最盛期南米航路:移民たちがつづる「航海日記」
  • 第六章 可視化された世界一周航路:『海』グラビアにみる寄港地風景
  • 第七章 二世少年少女たちの「祖国」への旅:古写真と回想にみる復航航海
  • 第八章 近代保健衛生のフロンティア:移民名簿に表れた集団感染
  • 終章 オランダ船でゆくブラジル:デジタル記念誌でたどる航路体験
  • おわりに
  • 索引

千街晶之『ミステリ映像の最前線―原作と映像の交叉光線』書肆侃侃房

概要

ミステリが映像化される際、何のために、どのように改変されるのか。

アガサ・クリスティー、東野圭吾、横溝正史など、名作とその映像化のもたらす化学反応の面白さ。その秘められた意図とは?

【取り上げられた作品】
鍵のかかった部屋/オリエント急行殺人事件/氷菓/屍人荘の殺人/女子高生に殺されたい/貴族探偵/探偵はBARにいる/ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~/誰よりも狙われた男/ジョーカー・ゲーム/キングスマン/天空の蜂/帰ってきたヒトラー/アルキメデスの大戦/お嬢さん/悪魔が来りて笛を吹く/W県警の悲劇/残穢―住んではいけない部屋―/サスペリア/ナイトメア・アリー など

目次
  • 第一部 謎解きの透視図
    密室とパズル―『鍵のかかった部屋』
    復讐は雪の夜に―『オリエント急行殺人事件』
    救済ある古典部の浄化―『氷菓』
    クローズドサークルの二つの顔―『屍人荘の殺人』
    操りのピタゴラ装置―『女子高生に殺されたい』
  • 第二部 探偵たちの肖像
    探偵と呼ばれる資格―『貴族探偵』
    雪の街の探偵―『探偵はBARにいる』
    黒い羊の出発―『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』
  • 第三部 スパイたちの世界地図
    汚水に沈む黄金―『誰よりも狙われた男』
    道化師たちの貌―『ジョーカー・ゲーム』
    マイ・フェア・ジェントルマン―『キングスマン』
  • 第四部 災厄の歴史年表
    予言者と群衆―『天空の蜂』
    眠り男の悪夢―『帰ってきたヒトラー』
    阿呆船の祭り―『アルキメデスの大戦』
  • 第五部 ジェンダーの縮図
    水銀の因果の環―『お嬢さん』
    禁忌と境界―『悪魔が来りて笛を吹く』
    ガラスの崖と沼の底―『W県警の悲劇』
  • 第六部 恐怖と幻想の俯瞰図
    伝染する怪異―『残穢―住んではいけない部屋―』
    ドイツの秋、魔女たちの冬―『サスペリア』
    地獄の門と隠れ鬼―『ナイトメア・アリー』

『世界 2023年8月号―特集 安倍政治の決算』岩波書店

概要

特集 安倍政治の決算
安倍晋三元首相が亡くなってから1年が経つ。
激しい批判にさらされながらも熱狂的な支持を獲得し、たびかさなる選挙でも勝利し、8年8カ月余という憲政史上最長となる政権を実現した安倍元首相の存在感は、今も大きい。安保法制や異次元の金融緩和をはじめとする安倍政権の政策思想は、岸田政権にも受け継がれ生き残っている。
しかし、「安定政権」のもとで多くの課題も噴出した。歴史認識をめぐる対立や沖縄の基地問題は安倍政権時代にこそ激化し、縁故主義や政治と宗教をめぐる利権構造は肥大化した。
また、少子化対策は次世代に積み残され、女性や性的マイノリティの権利をめぐるバックラッシュも起きている。
在任3188日のあいだに社会の何が変わり、何が変わらなかったのか。長きにわたって日本の舵取りを行なってきた安倍政治を歴史的に位置づけ、重層的に見つめ直す。

目次
  • 〈最も危険な企て〉始源について 石川健治(東京大学)
  • 〈対談〉岸田政権は安倍政権の呪縛を解けるか 後藤謙次(ジャーナリスト)×牧原 出(東京大学)
  • 〈思想的検証〉安倍晋三と「愛国心」 将基面貴巳(オタゴ大学)
  • 〈30年の研究から〉統一教会問題──宗教リテラシーと歴史認識の貧困がもたらしたもの 櫻井義秀(北海道大学)
  • 〈コネクションの経済〉長く延びる影 重田園江(明治大学)
  • 〈抜け出せないアポリア〉官製歴史修正主義──安倍政権の大願成就 倉橋耕平(創価大学)
  • 〈日本の病根〉醒めてはならない夢──日本経済史のなかのアベノミクス 武田晴人(東京大学名誉教授)
  • 〈「憲法の番人」の責務〉それでも安保法制は違憲である 長谷部恭男(早稲田大学)
  • 〈民意の蹂躙〉「美しい国」の琉球処分──安倍政権と沖縄 豊田祐基子(ロイター)
  • 〈40年史のなかで〉「子どもの貧困」がもたらした政策転換──安倍政権下で児童扶養手当はいかに拡充されたか 田宮遊子(神戸学院大学)
  • 〈日韓の新たなステージ〉封印された歴史──韓国から見た安倍政治南基正(ソウル大学)
  • 〈二重の要求〉「すべての女性が輝く社会」の実像皆川満寿美(中央学院大学)
  • 〈公正な社会へ〉奪われた未来──「性」をめぐり、止められた時間松岡宗嗣(一般社団法人fair代表理事)
  • 〈政治をわたしたちのものに〉若者の安倍政権支持? 能條桃子(NO YOUTH NO JAPAN代表理事) ほか

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